〜若手の育成について〜
【参加者紹介】
・冨田昌夫/
森ノ宮医療大学客員教授、藤田医科大学客員教授、
沸教大学保険医療技術大学客員教授
・諸橋勇/
いわてリハビリテーションセンター機能回復療法部長
・河合麻美/
NPO法人ReMind代表理事、リハビリママ&パパの会代表
・鯨岡栄一郎/
株式会社メディケアソリューション代表取締役
・川口徹/
青森県立保健大学・大学院教授
・祝 広孝/
医療法人曽我病院リハビリテーション診療部部長、体表解剖学研究会理事
・山本尚司/
一般社団法人運動連鎖アプローチ協会代表
笹倉/
本日は、このような機会にご登壇いただき、誠にありがとうございます。
今回、先生たちがどのような経験をされて、どうやって苦難を乗り越えてきたのかをテーマに沿ってお伺いし、視聴者の方と共にお話を進めていきたいと思っています。
視聴者の皆さんからは、たくさんの質問をいただきました。
「先生たちの師匠について」をはじめ、
「自己成長どのようにしてきたか」
「若手育成の昔と今って何が違うのか」
「次世代に残していきたいことと、変わってもいいこと」
「技術と人間力をどう伸ばせばいいのか」
「アクセラレーションプログラムのような育成法についてどう思っているか」
など、こうしたテーマを元にご回答いただきます。
Vol.1 自己紹介
藤田医科大学で客員教授を務めている冨田です。もう大学を辞めてから、かなりの時間が経っています。今、最もやりたいのは、これまで培ってきた理学療法技術を若い人に、何とか繋いでいくことです。この技術を今の時代で失くしてほしくありません。次世代に繋ぐためにいろいろと模索している中で出合ったのがアクセラレーションプログラムです。これにものすごく感動、共感して、今日、こうした場にも参加させてもらっています。
どうぞよろしくお願いします。
いわてリハビリテーションセンターの諸橋です。よろしくお願いします。先日も「ONLINE MASTER」という雑誌で山本尚司先生と対談をさせていただきました。回復期病棟をはじめ、現在、スタッフが多くなっているので、マニュアルで画一化が進んでいます。そのためなかなか個人的な思考、つまり個性を伸ばすことができないのが現状です。しかし、それだけだと理学療法士として、患者様の潜在能力を引き出すことができません。
私も年齢的にそろそろ本格的に後進を育てたいという気持ちが強くなっています。仲間やスタッフの潜在能力を出すことができているのだろうか。そういう問題意識の下、自分が属している組織だけなく、業界全体を何とかしたいと思い、今回、参加させていただいています。よろしくお願いします。
こんにちは、よろしくお願いします。今日、唯一の女性ということで頑張りたいです。私はリハビリママ&パパの会代表を務めています。私自身、子供が4人いるのですが、3人目と4人目が双子でした。その際、育児の壁にぶつかったことをきっかけに、育児と仕事の両立を目指して託児付き勉強会を行う活動をやっています。活動を始めて、今年で10年ほどです。理学療法士として、ずっと急性期病院で働いていましたが、一昨年退職し、昨年NPO法人ReMindを立ち上げました。目標は誰も取り残されない社会をつくることです。地域に飛び出して、相談室や街の保健室などの活動をやっています。また、私はコーチングもしています。リハビリテーション専門職や対人支援職の方は自己犠牲や奉仕の精神がとても強いです。だからこそ、その分、セルフマネジメントすることも大切です。そうした点を学ぶため、今後、株式会社ALTURAさんの活動にもっと深く関わっていけたらいいなと思っています。よろしくお願いします。
はい、皆さん、こんにちは。鯨岡栄一郎と申します。私は福島県いわき市の出身です。普段は株式会社メディケアソリューションの代表をやりながら、訪問リハビリテーションをしたり、高齢者施設や病院の研修をしたり、執筆活動をしたりしています。書籍については、ちょうどこの間、認知症のコミュニケーションに関する本を書き上げたばかりです。そもそも私がここにいていいものかどうか恐縮です。私は他の先生がたと違って、まるっきりだめなところから、ここまでやってきました。自分が変わったきっかけは、コーチングとの出合いです。セルフコーチングを通して、自己開発を進めてきました。世の中はスーパーな先生ばかりではありません。しかし、自分の強い思いをベースに考えや発想を展開していくと、やれることはたくさんあると気づきます。ある意味、弱者の視点です。そういったのを若い人たちに伝えていきたいと思っています。よろしくお願いします。
青森県立保健大学の川口と申します。以前から懇意にしている諸橋先生のご紹介で、今回、参加させていただきました。実践的なセミナーはなかなか大学では教えることができません。そのため実践的なものを教えていただける場として、株式会社ALTURAさんの活動をとても魅力的に感じています。私はその他に株式会社トレックスを経営しています。主に行っているのは、介護保険下での医学療法やリハビリテーションの展開です。それを通して、地域貢献を実現していきたいと考えています。また、現在は、施設の入居者さんや通所者さんが、どれだけ短時間で効果を上げるかの検証もしています。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。祝です。福岡県大牟田市の医療法人曽我病院でPTとして働いています。臨床に携わって、今年でちょうど30年目です。節目の年にこうしたお話をいただいて、自分自身もステップアップできればと思っています。また、現在、解剖と触察の研究をしている体表解剖学研究会で講師をしています。研究会の開催は今年で24回目です。受講生として参加し始めて、二十数年、講師活動をしています。今回、若手の方に向けた話をするセッションです。私たちの時代と今の時代でだいぶ環境が変わっています。今はなんとなく正解が作られてしまっているのではないでしょうか。要は、量産型のPTとして育てられてしまっています。最近の学生さんたちを見ながら、一人ひとりの個性が立つような教育や育成があってもいいのではないかなと感じています。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。私は臨床をして31年目になりますが、異色の経歴かもしれません。20代の頃は日本体育協会スポーツ科学研究所に7年間研修に行ったり、鍼灸の夜間学校に通ったり、年間200日くらいスポーツ現場に出たりしていました。その間、10年間くらいは、ほとんどリハビリの世界を見ていません。整体や歯医者、カイロプラクティック、オステオパシーなどをラウンドしていました。しかし、30歳過ぎに、日本の理学療法はどうなっているのだろうと気になって戻ってきたという流れです。実を言うと2月に、リハビリ統括部長として、中国の施設に赴任する予定でした。しかし新型コロナウイルスの影響で中国に行けず、4月22日にビザの期限も切れてしまいました。今回の新型コロナウイルスの影響を非常に受けた状況です。2、3年先送りなると思いますが、海外に日本の良いものを発信していきたいと考えています。中国で働くつもりが、その2カ月後にはまた日本で就職と、新型コロナウイルスに翻弄された。それにめげずに素晴らしい先生方と一緒に、今回シンポジウムの方を盛り上げていきたいです。よろしくお願いします。
Vol2 師匠とは・・・
河合/
自分なりに考えたのですが、「この人!」という方が思い浮かびませんでした。
一人いるとすると、対馬ルリ子という産婦人科の先生です。
5年前から、女性医療ネットワークで学び始めて、先生の発信力や思い、人の巻き込み力などに感銘を受けています。
皆が応援したくなるような人物像で、とても尊敬をしています。
後は、私自身、人が好きなので、日々出会う人から学ぶことも多いです。
例えば患者さんと話しているときに、育児や嫁舅問題の相談に乗ってもらったりすることもあります。
人との出会いからいろいろと学べることはあるので、その時その時で「素敵だなぁ」と思う人から学ぶようにしています。
山本/
私は東京都立医療技術短期大学の二期生です。
当時、福井勉先生が助手でいて、非常に懇意にさせていただいています。
卒業時の春休みには、一緒に種子島で開催される「たねがしまロケットマラソン」に行ったり、1年目の学会のときには直々にご指導いただいて発表したりしました。
当時に比べて少なくなってしまいましたが、今でも交流があります。
非常に影響を受け続けていると言っても過言ではありません。
笹倉/
河合先生のように複数の師匠がいる場合も、山本先生みたいに一人の師匠に付いてきた場合もあるのですね。
諸橋先生はいかがですか。
諸橋/
今日、登壇されている冨田先生です。
いわてリハビリテーションセンターの開設当時から、二十数年間に亘って、研修会を開いていただいています。
何がすごいかと言うと、一言一言の重みですね。
先生の治療はもちろん、相手の気持ちや状況を捉える適切な言葉を選びにも感銘を受けています。
私自身、落ち込んだり、迷ったりしているときに助けられました。
師匠というと、「匠」という文字があるくらいなので重たい感じがしますが、その時々で、「この先輩をモデルにしたい」というロールモデルはいます。
ある意味、そうした方々も気軽な意味で師匠かもしれません。
笹倉/
ありがとうございます。
諸橋先生が冨田先生の「ここを学んだ」という具体的なエピソードはありますか。
諸橋/
デモンストレーションをしてもらったとき、冨田先生が汗を流しながら患者様を診ていました。
その姿を見て、
「冨田先生でさえ、ここまでやらないと患者様は変わらないんだ」と強く心に残るのと同時に、
「ならば、我々はもっと高い熱量を持って患者様を診察しなければいけない」と感じました。
若い世代には、ぜひそういう姿勢を学んでほしいです。
笹倉/
ありがとうございます。
教育現場で働かれている川口先生から見てどうですか。
教育制度の中で師匠関係や師弟関係はどのように存在しているのでしょうか。
川口/
私が初めに師匠だと思ったのは、地域リハビリテーションをされている伊藤英男先生です。
僕の出身校である、弘前大学医療技術短期大学部で先生をやっていました。
今、私は青森県立保健大学で勤務しています。
そのきっかけも、伊藤先生に呼んでいただけたからです。
伊藤先生は非常にボランティア精神が盛んで、積極的に地域に飛び出しています。
だけど、若いときは「技術で飯を食うんだ」と思って、いろいろな技術を習得することに必死で、先生の活動に興味がありませんでした。
だけど、年とともに地域に出る大切さに気付かされます。
そして今、伊藤先生の後を追いながら、マインドも含めて展開することの重要性を痛感しています。
笹倉/
ありがとうございます。
本当にさまざまな師匠さんがいて、その方から技術力や人間力を学んでこられたのですね。
Q1 理学療法士の強みとは・・・?
山本/
私は20代から10年間ほど、スポーツ現場に出ずっぱりだった時期があります。
その中で「PTにできることは何だろう」「PTの専門性は何だろう」と悶々と考えていました。
当時、PTだけでなく、トレーナーの方もたくさんいました。
神業のようなテクニカルを発揮される方も山ほどいます。
なので、私がトレーナーで付いていても、監督さんが他の治療家の方に選手を連れていくなど、非常に屈辱的な思いもありました。
そうした経験を通して「PTとして何ができるか」という問いに私の結論が出ます。
それは、PTの一番の専門性はリハビリテーションという理念を具現化できるということです。
リハビリテーションについては、専門学校一年生の最初に習います。
私は砂原先生のリハビリテーションーを学びましたが、10年間掛かって、リハビリケーションの原理原則に行き着いたのです。
愕然としました。
専門学校の一年目で習ったことに、10年間の武者修行を経てたどり着いたのですから。
笹倉/
ありがとうございます。
今の山本先生のご意見とは違う考えを持っている先生はいらっしゃいますか。
冨田/
冨田ですが、よろしいでしょうか。
笹倉/
はい、お願いします。
冨田/
セラピストとして最大の魅力は何だろう。
それを考えていくと、人と接触できることだと思います。
ドクターでも私たちと同じように体に接触することはできません。
私たちは老若男女問わずに接触して、そこから情報をもらえます。
こんな職種は、他にはないのではないでしょうか。
接触したところから教えられることもたくさんあります。
見て取ったり、感じ取ったりすることで、人としてもすごく成長するでしょう。
こんな成長の仕方ができるのは理学療法士や作業療法士、セラピストだけだと、私は固く信じています。
リハビリテーション×コーチング
もともとコーチングは、私自身が面白い分野だと思って学び始めました。かつて不勉強からリハビリテーションに退屈感を覚えたことがあります。だけど、面白いもので、訪問リハビリテーションの現場に行き出した今になって、関心が高まっています。
笹倉/
河合先生と鯨岡先生はコーチも務められています。セラピストの技術を踏まえて、コーチに特化しているから感じることはありますか。
鯨岡/
もともとコーチングは、私自身が面白い分野だと思って学び始めました。
かつて不勉強からリハビリテーションに退屈感を覚えたことがあります。
だけど、面白いもので、訪問リハビリテーションの現場に行き出した今になって、関心が高まっています。
冨田先生がご指摘されたように、患者様に直に触れることで教わることは少なくありません。
生活全般のさまざまなアプローチで、その人の生活が変わるだけでなく、家族の方々の喜び具合もまるで違います。
コーチングの技術を使いながら、その人自身が元気になって動機付けられていく。
コーチングとリハビリテーションとの親和性が高いのではないでしょうか。
笹倉/
ありがとうございます。河合先生はいかがですか。
河合/
私がコーチングを学び始めたきっかけは、学校時代に患者さんのやる気を引き出すコミュニケーション方法を教わらなかったからです。
だから「頑張れ」くらいしか患者さんに言葉を掛けることができなく、モヤモヤした思いを抱えていました。
そんなときに出合ったのがコーチングです。
自分の課題にマッチしていると思って、学び始めました。
PT だからできること、PTならではの強みは、現場で障害がある方や高齢の方、何かしらの不自由を抱えている方と接して、その気持ちを受け取った上で社会に通訳として伝えていけることです。
ある意味、媒介者のような役割を果たせます。
障害がある方は直接言えないけれど、私たちを介することで何か変わってくるかもしれません。
PTとして、その視点を持つことは大切です。
NPO法人ReMindの“リマインド”も、リハビリテーションマインドから来ています。
なので、山本先生も冨田先生もご指摘された通り、リハビリテーションマインドが大切なんじゃないかなっていうのは感じています。
リハビリテーションマインド
笹倉/
リハビリテーションマインドについて、祝先生は職人だと感じるのですが、何かご意見はありますか?
祝/
先ほど、山本先生がご指摘されたのですが、結局は教科書に書いているリハビリテーションの内容に回帰してくると私も思っています。
ここ十数年の間、理学療法士はとても迷走しているのではないでしょうか。
2000年に診療報酬が下げられた結果、いわゆる“リハバブル”が終わりました。
その途端に皆、慌てふためきます。
介護保険が始まった途端、「私たちは介護もできます」と手を上げたりしましたから。
しかし、どれも中途半端に終わり、職域を広げるどころか、結果的に「なんでも屋」になってしまいます。
そもそもPTは国家資格なので、「PTにできることって何ですか」という質問が出てくること自体、私は異常だと思っています。
私が就職をした30年以上前から、理学療法は行われてきました。
しかし、ある時点から理学療法は古いと否定され、皆、新しいことに目がいってしまいました。
だからこそ、もう一度、リハビリテーションという言葉について考えなければなりません。
理学療法士はリハビリテーションという枠の中で育ってきた職種です。保険診療が下がり、儲からなくなったからと言って、そこに背中を向ける職種に将来はないのではないでしょうか。
リハビリテーションという職種の中で、私たちに何ができるか。
しっかりと再考し、原点に立ち返る時期に来ているのかもしれません。
山本先生がご指摘されたように、教科書で習ったところに戻るという姿勢が大切です。
もう一回、教科書でリハビリテーション概論を読めば、何かヒントがあるのかなと思っています。
希望が持てる理学療法士業界とは・・・
笹倉/
先生たちのお話の中で、転換期、原点回帰というキーワードが出てきました。
それでは、これから理学療法士になる方が希望を持って働ける業界になるためには何が必要だと思いますか。
まずは冨田先生から、今後、より魅力的な業界にするため、どこを変えて、どこを変えるべきではないとお考えでしょうか。
冨田/
最近の現場では本当にマニュアル化は進んでいます。
マニュアルをこなせるセラピストが良いセラピストという風潮さえあります。
教育の中で知識しか授けられなくなったことが原因ではないでしょうか。
知識だけで判断するなら、現在の若いセラピストに私は到底太刀打ちできません。
でも、知っているだけでは使いこなすことができないのも事実です。
やはり実際に触れて「あの知識ってこうなんだ!」という感動があって初めて、現場で使える知識になります。
今、そうした感動をさせてもらえる機会がありません。
それを取り戻すことが、今、私の一番やりたいことであり、必要なことだと思っています。
笹倉/
冨田先生、ありがとうございます。それでは川口先生、教育現場から見て、触れることから知識を学んでいくことは可能なのでしょうか。
川口/
各養成校によっていろいろと現状が違いますが、実践形式の授業を取り切れていないケースが多いような気がします。
ほとんどノーマルノーマル同士でのシミュレーションしかないのではないでしょうか。
しかし、現場に行かないと、筋の緊張度が異常だとか体に起こる不調を見ることはできません。
実習教育をどれだけ充実させるか。
それが養成校のこれからの課題になっていくと思っています。
Q2 理学療法士としての自信をいつ持ちましたか?
祝/
まだまだ全然です。
もちろん結果を出すということにこだわっています。
だけど、絶対に結果が出せるかというと自信はありません。
どういう意味で、自信という言葉を使うかにもよります。
それ次第で自信にも過信にもなってしまいますから。
でも「自分はもう理学療法士として大丈夫だ!」という気持ちで仕事に臨んでいる人はそんなに多くないのではないでしょうか。
不安だから情報収集するし、患者さんを担当するときに緊張感も生まれます。
結果を出せるかどうかの中で考えるからこそ成長があるので、その過程は大事です。
一つ一つのテクニックにある程度の自信がないと治療はできません。
でも、それと理学療法士としての自信とは別です。
それに関しては、まだまだだと思っています。
笹倉/
ありがとうございます。山本先生、どうぞ。
山本/
去年、中国で夏3週間、年明け2週間、臨床を経験しました。
そこで感じたのが、中国人は自己肯定感、自己主張がとても強いということです。
それを目の当たりにして、自己肯定感が強くないと、中国ではやれないと思いました。
自分の持ち味を自覚しない限りは、中国で戦っていけません。
日本では謙虚が美徳とされていますが、私ももう30年も臨床をやっています。
いい加減、自惚れてもいいかなぁと思っています。
自己肯定感が強くないと、中国でやっていけませんから。
中国にアジャストするため、自分自身に自信を持ちたいです。
自信は何かというと、個性であり、キャラクターです。
自分の持ち味をいかに自覚するかということだと思います。
笹倉/
ありがとうございます。
富田先生はスイスで修行された経験があります。
その経験を踏まえて、自信についてどうお考えですか。
冨田/
若いときは自信の塊でした。
スイスから帰ってきたときは特にそうです。
そもそも、なぜスイスに行ったかというと、技術がないとセラピストとして絶対にやっていけないと思ったからです。
現地では患者さんが自分と外国のセラピストのどちらを選ぶか競争していました。
実力をつけるためスイスまで行ったので、私も譲れません。
セラピスト間で、何度も大げんかをしました。
そうした積み重ねの中で実力を付けたので、日本に帰ったときに私にあったのは「自分は何でもできる」という自信だけです。
しかし、その後、何度も打たれました。
まさに出る杭は打たれるのです。
その一方で、自信を付けた経験は大切だったと思いました。
最初から引っ込んでいたら、得られるものは何もありませんから。
「何でもできるぞ!」という自信を持っているにもかかわらず、できなかったときの挫折が自分をつくってくれたのです。
大事なのは叩かれて凹んだときに、そのままにならないことです。
自分を救ってくれる人をぜひ作っておいてください。
救ってくれる人がいないと立ち直れません。
自分を守ってくれる人と、叩かれてもいいところで出しゃばる。
この両方をつくることが重要なんじゃないでしょうか。
自信は絶対に持たないと駄目だと思います。
笹倉/
ありがとうございます。
冨田先生のお話の中に、挫折という言葉がありました。
先生たちの中で、ここで挫折をしたからというエピソードをお持ちの方はいますか。
冨田/
いっぱいありますよ(笑)。
病院にはプレスカンファレンスがあります。
装具を作るかどうか、作るのならどんなものを作るのかなど、チームで話し合います。
すると、時には対立することもあります。
だけど、私は譲りたくありません。
例えば、LLBなら、納入されるまでに3週間はかかりました。
その間に患者様の状態を良くしていれば、LLBを使いません。
なので、私はよく「自分が絶対に、この患者様をLLBが必要ない状態まで持っていくぞ」と宣言していました。
そうなったら意地です、やらなくてはいけません。
実際、LLBがいらない状態になった患者様を何人かいました。
その結果、自分の主張も聞いてもらえるようになります。
今のセラピストに一番欠けているのは責任です。
責任を与えられていないのです。
プレスカンファレンスで何か言っても、「責任を取れるのか」と言われるので、積極的になれません。
だけど、専門職として一番恥なことです。
あってはなりません。
責任持つということこそ、基本態度です。
自信をつくるため、それが一番重要なことではないかと思っています。
笹倉/
ありがとうございます。
祝先生も挫折のエピソードで手を挙げていましたね。
祝/
私も天狗になっていた時期があります。
20代後半から30代前半は特にそうです。
でも、ことごとく鼻をへし折られました。
私も「自信がないです」という相談をよく受けます。
でも、その質問を通して思うことは、まず今の自分はとりあえず肯定するということです。
若い人たちの自信のなさは、今、自分が何もできていないことから来るネガティブを起因にした自信のなさです。
一方で、先ほど、私がお話した自信のなさというのは、ある程度何かをはできるけれども、完全に治せるかというと不安があるという意味での自信のなさです。
一番初めの話に戻りますが、私が臨床の師匠に言われた言葉があります。
あるとき、患者様を先生から紹介していただきました。
たけど、その頃、ちょうど挫折をしていた時期で、ちょっと凹んでいたんです。
なので、先生から「お前ができる程度でいいから」と言われて、「ちゃんとやりますよ」と噛み付いてしまいました。
そのとき先生に言われたのが
「お前はできることは知っている。だけど、いくらできても、お前の精一杯しかできないだろ。それをしっかりと発揮しろよという意味だ」と言われ、そういうことかと思いました。
5年後、10年後に今の自分を振り返った時に「ばかだったな」「ダメだったな」と思ったら成長している証拠です。
だから、今、自分ができる精一杯をやれていればいいのです。
それでも凹むことはいっぱいあると思います。
それでも自分を否定せずにいてほしいです。
逆に言えば、自分ができる精一杯をできていたら、一年目だろうが二年目だろうが関係ありません。
しっかりとした自信を持ってもいいか思います。
過信には必ずしっぺ返しが待っています。
それもいい経験かもしれません。
だけど、できることなら避けた方がいいのではないでしょうか。
笹倉/
祝先生、ありがとうございます。
諸橋先生は病院組織の中で70名を教育しています。
自信については、どうお考えですか。
諸橋/
私はもう三十数年、理学療法士をやっています。
今の実力があれば、若い頃、もう少し患者さんをしっかりと治療できたなと思うことは少なくありません。
だけど、一方でその都度、その都度の自信はあります。
冨田先生がご指摘された通り、リハビリテーションで一番問題などは契約がないことです。
いつまでにこれくらいまで治療すると宣言して、患者さんと向き合うことはありません。
若い人たちが伸びなかったり、自信なかったりするのも、そういう要因があると思います。
契約、それに基づく責任がないということが大きいのではないでしょうか。
業界にこんな人材がいたら・・・
笹倉/
経験を形にしていくことは本当に難しいです。
人に触れて結果を出していく仕事なので、より難しいのではないでしょうか。
医療現場の中にいるからこそ、危機感や責任感を持って仕事に臨んでいかなければならないと、あらためて思いました。
先生たちは、技術力と人間力を育まれてきたので、今日のポジションまで辿り着かれました。
そうした経験も踏まえて、今後、業界にこういった人材が出てきてほしいというご意見はありませんか。
山本/
大谷選手や羽生結弦くんのようなスーパースターが出てきてほしいと思います。
私たちの世代にはいませんでした。
今の若い方は個性を最大限に活かせます。
そういった意味で、私たちの想像を超えた人材が出てくる土壌はあると思います。
その一方で、常に右肩上がりで頑張らなければならないわけではありません。
いろんな立場の人がいます。
どんどんと伸びてほしいという期待感もありますが、一歩下がる勇気も必要です。
不確かな世の中です。
進もうと思っても進めない時期もあるでしょう。
頑張ろうとしても、頑張れない状況もあります。
そういった時に、頑張り過ぎないことです。
下がることを恐れないでほしいと思います。
河合/
私はフルタイムでずっと病院で働いていました。
病院を出た後、自分が生きていけるかどうか本当に不安でした。
想像したこともなかったですから。
定年するまでずっと病院にいると思っていたのです。
だけど、自分のやりたいことが見つかったとき、病院を飛び出せたのは周りの友達や信頼している人たちが背中を押してくれたからです。
ぜひ皆さんも自分がやりたいこと、こんな社会にしたいという夢をもってほしいです。
笹倉/
ありがとうございます。
鯨岡先生は、事業者さんをサポートされています。
その視点から、こういう業界になってほしいとか、こういった人材がいたらいいと思うことはありますか。
鯨岡/
今の若い人たちは、本当に意欲性も様々だし、能力も様々だし、価値観も様々だし、多様化しています。
セラピストの学校に行ったからといって、必ずしもセラピストになるわけでもありません。
なので、私も、本当に意欲があって野心のある若い人と接する機会が増えました。
野心とか熱量とか熱さとか、とても古くさい言葉ではあります。
でも、そういう子に会うと可愛がりたいと感じるのが正直なところです。
サポートしたい、と自然に思えます。
皆が熱くなれとか、野心を持たないといけないというわけではありません。
だけど、思いとか熱があるからこそ、先輩たちとつながれることがあるので、自分の武器になってくれると思います。
笹倉/
ありがとうございます。
教育現場からのご意見として、川口先生いかがですか。
川口/
私は養成校の教員なので、理学療法士になりたい生徒を指導しています。
一方で今日、登壇されている先生たちは非常にバラエティ富んでいます。
そうした先生たちの姿を見て、私としては病院や施設という枠組みだけではなく、世の中に影響を与えることができる理学療法士を育成していきたいです。
学校にいると、どうしても凝り固まってしまいます。
実際、「私はこの病院に行きたい」とか「急性期に行きたい」「回復期に行きたい」という学生もとても多いです。
でも、そういう枠組みを取っ払い、「世の中に影響を与えていたい」と立ち上がれる学生を育てたいと思います。
動けば何かが起こる。
ぶつかれば何か次がある。
それは間違いのないことです。
今日、登壇いただいた先生たちと私は出会って一年も経っていません。だけど、話を聞いて面白いし、多くの刺激を頂いています。
多くの人に会えば会うほど学びがあり、気づきがあります。
そうして得たものは、患者さんに生かすだけです。
考えがあるんだけど一歩踏み出せない。
そんなセラピストさんに言いたいのは、皆さんが次世代の期待だということです。
若い方は経験が足りないかもしれません。
だけど、アイディアやアクションは若い方の方ができるフィールドです。
今回のシンポジウム通して、そこに気づいていただきたいと思いますし、私がシンポジウムを開催した狙いもそこにあります。
視聴者の皆さんに少しでも何か伝わっていればすごくうれしいです。
2日間のオンラインシンポジウムはこれで終了です。
皆様、本当にありがとうございました。
オンラインだからこそ届けられることはたくさんあるのではないかと思っています。
今後ともよろしくお願いします。