みなさんは「オステオパシー」という言葉を聞いたことがありますか?
新しいビジネス用語かな? 難しい経済用語かもしれない。なんだか魔法のコトバのように聞こえる……と、いまいちピンとこない方が多いかもしれませんね。
オステオパシーは、とてもすごい力を持っています。人が本来持っている自然治癒力を引き出して、身体の不調を消すことができるのですから。そんなことが本当にできるのと驚きましたか? でも、そんな魔法のようなことを可能にするのがオステオパシーです。実際に、どの病院に行っても取れなかった痛みが、オステオパシーで治ったという人も多くいます。
なんだか怪しい。本当に大丈夫なの?……
と、今度は、そんな声が聞こえてきますね。もちろん、全く怪しくはありません。むしろ世界中で施術が行われ、高い信頼を寄せられている療法なのです。
そもそもオステオパシーは、アメリカで生まれた手技療法です。手技療法とは、施術者の手だけで患者の筋肉や関節の動きやズレを調整し、痛みを和らげます。器具はもちろん、薬なども一切使いません。アメリカではカイロプラクティックとスポンデロテラピーと並んで三大手技療法として知られています。歴史は古く、1874年に誕生しました。創設者はアメリカでアンドリュー・テイラー・スティルという方です。
彼はもともと軍医でした。オステオパシーの道を志したきっかけは、3人の子どもたちの死です。なんと彼は、大切な子どもたちを髄膜炎などで次々と失ってしまったのです。長年、自分が身を投じてきた西洋医学では、かけがえのない命を救えないのか。そう痛感し、西洋医学の限界を感じた彼は自然療法の道へ進むことを決意します。
どうですか? こうした話を聞くと、オステオパシーが実績と信頼に裏付けされた、長い歴史を持つ療法だと分かりますよね。まだ疑心暗鬼の方がいるかもしれません。でも、次の話を聞いたら安心できるのではないでしょうか。
オステオパシーは哲学であり、科学であり、芸術です!
……と、突然難しい話題に飛んでしまいましたね。少し噛み砕いて説明しましょう。
まず、オステオパシーは哲学だから在るべき姿があります。つまり確かな基準があるからこそ学問として成り立ち、多くの人が習得できるのです。
次にオステオパシーは科学だから解剖生理学や病理学の知識が欠かせません。確かな理論に基づいたものなので、ロジカルに人の体を読み解き、効果的な結果を引き出せるのです。
そして芸術だから触診の技術やテクニックが必要です。スポーツと似ていますね。例えば、サッカーやバレーボールの理論をいくら理解したからといって、いきなり上手にシュートやアタックが打てるわけではありません。それと同様にオステオパシーにもテクニックが必要です。
オステオパシーは哲学であり、科学であり、芸術である。この3つがベースにあるからこそ、人が本来持っている自然治癒力を引き出して、身体の不調を消すことができるのです。治療を施す方も、常にこの原則を意識しています。
どうですか。オステオパシーのすごさについて、少し理解していただけたでしょうか。もっと深くオステオパシーについて理解してもらえるように、3つの中で一番大切な哲学について解説します。
哲学には4大原則があります。それが下記の4つです。
「身体は一つのユニットである」
「身体は自己調整・自己治癒・健康維持能力をもつ」
「構造と機能の相互関係」
「動脈血は非常に重要である」
字面だけ見ると、ちょっと難しく感じてしまいますよね。でも、内容は実にシンプルです。それぞれについて、噛み砕いて解説をしてきます。
まずは一つ目の「身体は一つのユニットである」から見てみましょう。
人の身体は骨や筋肉、関節と、多くのパーツが組み合わさってできています。ということは、互いに影響を与え合っているということ。みなさんの中に痛みがある箇所をカバーしていたら、他の箇所が痛くなったという経験はありませんか?
……どうでしょう、ピンとくる経験はありましたか。例えば、目の疲れの原因が肩こりにあったり、膝の痛みの原因が筋肉にあったりする症状は多く見受けられます。つまり、何か症状があった場合、一つの部位だけでなく、全身を診なければ本当の原因にはたどり着けないのです。
眼精疲労だと思って、目薬をしているあなた。もしかしたら根本的な原因は他にあるかもしれませんよ。こうした事態を避けるためにも、全身の中から一番の原因を見つけて、そこを治療していく必要があります。
次は「身体は自己調整・自己治癒・健康維持能力をもつ」です。
オステオパシーでは施術者が一番の原因を見つけて、患者の骨格のズレや歪みを治して機能を回復させます。一見、すごいのは施術者のように思えますよね。魔法の手を持っているから、そんなことができるのかなって。
しかし、ハンドパワーではありません。実際に症状が治るのは、人の自然治癒力のお陰なのです。つまり施術者がやっているのは、患者の自然治癒力を蘇らすことだけ。それができれば病気は勝手に治るのです。人体の力って不思議ですよね。
三つ目は「構造と機能の相互関係」です。
オステオパシーは、身体の構造を診ています。つまり、首の上の正しい位置に頭が載っているか、骨盤が正常な位置からずれていないかといったことを診ているのです。そこを治療することによって、患者の機能を回復させています。骨盤を正しい位置に戻すと体の巡りが良くなって、冷えやむくみがなくなるといった具合です。
最後は「動脈血は非常に重要である」です。
人の身体の60%以上が水なので、オステオパシーでは水を非常に大切にしています。もし、体内の水の流れがどこかでブロックされてしまったら、何か病気になってしまうでしょう。分かりやすい例を挙げると、膝に水がたまる症状ですね。
水も重要ですが、それ以上に大切なものがあります。それが動脈血です。動脈血は酸素が豊富で、とてもきれいな血の流れです。それが汚れてしまったり、流れをブロックされたりすると、内臓疾患や筋肉の障害、皮膚の障害、精神的な障害など、あらゆる障害が引き起こされてしまう可能性があります。それほど動脈血は重要なのです。
どうでしょうか、オステオパシーに対する印象が少しは変わりましたか。「もっと知りたい!」という顔をしている方もいますね。それでは続いて、オステオパシーの歴史について見ていきましょう。
(2)オステオパシーの歴史とテクニック
突然ですが復習です。
オステオパシーの創始者の名前を覚えていますか?
……そう、アンドリュー・テイラー・スティルでしたね。彼はオステオパシーのドクターとなり、オステオパシー医学を体系的にまとめだけでなく、大学も創立しました。現在、そこから派生して生まれたテクニックが多くの現場で使われています。
まず有名なのが「頭蓋オステオパシー」です。えっ、頭蓋骨もオステオパシーの領域なのと驚いた方もいるかもしれません。オステオパシーのフィールドは想像以上に広いんです。
でも、「頭蓋骨が原因の病気なんてあるの?」と思いませんか。実はあるんです! 頭蓋骨周辺の筋肉や筋膜などが原因となって、顎関節症や頭痛が引き起こされたりします。頭蓋オステオパシーは、そうした原因にアプローチし、症状を取り除いていきます。なお、創始者はウィリアム・ガナー・サザーランドというD.O.で、アンドリュー・テイラー・スティルの生徒だった医者です。
「内臓マニュピレーション」も有名なテクニックとして知られています。内臓マニュピレーションでは内臓はもちろん、軟部組織と呼ばれる血管や横紋筋などにアプローチして、内臓領域の機能を正しい状態に戻します。内臓を本来あるべき位置に戻すことで、いくら胃薬を飲んでも治らない胃腸の不調や自律神経の乱れなどが治ったりするんです。開発をしたのは、ジャン・ピエール・バラルというD.O.です。
この他にも、筋肉の治療を行う、METと呼ばれる「マッスルエナジーテクニック」や「ストレイン・カウンターストレイン」という間接法などが有名です。
間接法?
……と、いきなり出てきた専門用語に驚きましたよね。直接法と間接法は、テクニックを語る上で欠かせない用語です。
実を言うと、オステオパシーの創始者、アンドリュー・テイラー・スティルは、テクニックを文章にしたり、動画にしたりして後世に残していません。
えーー―っ!!
って、飛び上がってしまいますよね。でも、ちゃんと理由があるんです。それは同じ症状の患者でも、その原因はそれぞれ異なるから! 症状を引き起こしている原因を治療するメソッドやテクニックはたくさんあります。だけど、全てのことを、全ての患者に使えるわけではないのです。
だからこそ、どこをどのように治療するかといった判断を行う評価はとても大事です。その上で、テクニックを駆使しなければいけません。
直接法は関節に正常な方に動かして、治療を行う方法です。主なテクニックは下記の通り。
・マッスル・エナジー・テクニック(MET)
・HVLA
・ストラスト関節モビレーション
・筋膜ストレッチ
・筋筋膜ストレッチ
間接法は、直接法とは逆に機能障害を起こしている方に動かしたりして自然治癒を促す方法です。主なテクニックを挙げると、次のようなものがあります。
・ストレインカウンターストレイン
・FPR
・靭帯性ストレイン
ちなみに先ほど解説した、頭蓋オステオパシーや内臓マニピュレーションは、直接法と間接法のテクニックが複合して誕生した技です。なんだかカッコいいですね。
このようにオステオパシーにはさまざまなテクニックがあります。つまりそれだけ治療できるフィールドも広いということ。実際、オステオパシーの適応症、つまりどのような症状に効果的かというと、5つもの分野に及びます。
(1)体性機能障害
(2)内臓機能障害
(3)自律神経系の機能障害
(4)内分泌系の機能障害
(5)心因性の機能障害
どうでしょうか、オステオパシーのすごさを少しは分かってもらえましたか。もしかしたら「自分の身体の不調もオステオパシーで治るのでは」と思った方もいるかもしれませんね。大きな可能性が秘められた療法。それがオステオパシーといって過言ではありません。
(3)動きの観察
オステオパシーでは動脈血を大切にしている。そう解説したのを覚えていますか。それと同じようにオステオパシーでは動きを大切にしています。
そもそも動きには2種類あります。一つは可動性で、もう一つが自動性です。可動性とは、どこまで動くのかを確かめる検査法です。もう一つの自動性は人が意識しなくても働く自動力のことです。そもそも生きていると、脳せき髄液や静脈動脈など、意識しないでも動く箇所はたくさんあります。逆に、そうした動きがストップしたり、妨げられたりすると、たちまち病気になってしまうでしょう。
オステオパシーでは可動性と自動性を診るため、手で診察していきます。ただ施術は簡単ではありません。やはり熟練したテクニックが必要です。何回も繰り返して触診をすることで、オステオパシーの施術者として熟練しなければいけません。そうした確固たる技術を習得してこそ、人が本来持っている自然治癒力を引き出して、身体の不調を消すことができるのです。
(4)禁忌症
オステオパシーでは施術を施してはいけないケースがいくつあります。どんなに治療を施してもらいたくても、逆にどれだけ患者の症状を取り除きたいと思っても、以下の症状が出ていたら注意をいなければいけません。これがいわゆる禁忌症です。
まず手術直後の治療は行なってはいけません。なぜか分かりますか?
なぜなら傷が治る過程で表れる瘢痕組織が形成されていない状態で触ってしまうと、出血する可能性があるからです。そうなってしまっては、治療どころではなくなってしまいますよね。また、伝染病や出血性の病気、骨折、脱臼、重度の動脈硬化、動脈瘤、静脈瘤といった生命に危険を伴う疾患なども全て禁忌症です。
オステオパシーでは、身体を触ったり、撫でたり、押したりして治療します。なので、圧迫に耐えられない皮膚病や皮膚疾患も禁忌症です。触れることで炎症を起こすような皮膚炎にも、もちろん触るべきではありません。
オステオパシーにかかれば、どんな症状も治る!
ここまで読んで、そう思っていた方もいたかもしれません。だけど、オステオパシーは手技によって患者を治療するプロフェショナル。薬を投与したり、手術をしたり、心理カウンセリングをしたりといったことができません。医療的な処置が必要な重篤な病気は必ず専門医へ。それが大原則だと覚えておきましょう。
(5)評価法
同じ症状の患者でも、その原因はそれぞれ違う。だから、どこをどのように治療するかという評価がすごい大事!
先ほど、そう解説したのを覚えていますか?
……そう、オステオパシーの創始者、アンドリュー・テイラー・スティルがテクニックを文章にしたり、動画にしたりして後世に残さなったからこそ、どのテクニックをどういった患者に施すかを判断しないといけないと説明しましたね。思い出しましか?
その評価法には一般的に行われている問診の他、外科的な検査法や理学的検査な検査法などがあります。
問診はSOAPとOPQRSTの2種類があります。この2つの評価法は、どの医学でも使われているほど有名です。きっとみなさんも病院に行ったとき、どちらかの方法で症状を聞かれているはずです。
全身を評価して、その中で圧痛がある部位、組織異常がある部位、制限がある部位などを観て、適切に治療を実施していきましょう。
いかがでしたか?
オステオパシーって何?
何だか怪しそう……
最初、そう思っていた方もオステオパシーの力を感じてくれたのではないでしょうか。人が本来持っている自然治癒力を引き出して、身体の不調を消すことができる。そのカラクリも理解できたはずです。どの病院に行っても取れなかった痛みが、オステオパシーで治ったという人がいるという事実にも納得してくれたことでしょう。
ぜひ機会をみて、その力をぜひ実際に体験してみてください。