局所ではなく、全体観から捉えてアプローチする方法
肩の痛みは、筋バランスの不良によって発生する。
五十肩って、言葉を聞いたことはありますか?
……
若い人だとあまりピンと来ないかもしれませんね。
まず初めにお伝えしておくと、五十肩は50歳の方に生じる肩の痛みではありません!
???
……と、たくさんのクエスチョンマークが付いてしまうのも仕方がありません。字面だけ見ると、そう思ってしまいますよね。
五十肩は、それくらいの年齢の方がなりやすい肩の症状です。なので、五十肩という名前が付きました。
同じような名称に、四十肩があります。それも同じです。40歳くらいの方がなりやすい肩の症状だから、四十肩と名前が付いています。だけど、五十肩も四十肩も体の器質的な悪い箇所はあまり変わりません。
それではセラピストの方に質問です!
普段、多くの五十肩の患者様を診ていると思います。どんな悩みを聞きますか?
……
肩が上がらない。
腕が回らない
高いものが取れなくなった
夜間に痛み、通称、夜間痛がある
物やボールを投げた後に痛みがある
こんな悩みが多いのではないでしょうか。肩の痛みは活動的な方に多いという特徴も忘れてはいけませんね。
肩はほとんどが筋肉で構成されています。肩を構成するのは上椀骨、そこに付随している鎖骨、肩甲骨の3つです。球関節の位置関係は、上腕二頭筋や上腕筋、三角筋、三頭筋、棘下窩、肩甲下筋、小円筋、大円筋などのバランスで決まります。
肩のゼロポジションを理解せよ。
肩の位置が、負荷のかかりにくい位置にあることを「ゼロポジション」といいます。一般的には肩甲骨から真っ直ぐの位置です。
だけど、ちょっと怪しい点もあります。なぜなら、人の体は一人一人違うからです。セラピストの方は前提条件として、患者様それぞれの肩の構成の特徴や痛みの出方などを把握しておかなければなりません。
それを理解するためにも、解剖学や生理学、痛みのサイエンスなどの知識が重要です。ただにマッサージをしたり、痛みの箇所をテーピングしたり、湿布を貼ったりするだけなら、こうした知識は必要ありません。だけど、しっかりと痛みの原因を見極めて、どこがどのように悪いのかを考えるには、学術的な知識が必須です。
ただ気を付けてほしい点があります。解剖学や生理学の教科書は数多くありますが、掲載されているのはあくまでも一般的な見解です。少し大声で言うので、よく聞いておいてください。
100%正しいわけではありません!!
そこに注意して、知識を活用していきましょう。
一般的な五十肩原因の考え方
一般的な五十肩は、ほとんどが棘上筋の緊張、もしくは損傷や断裂によって起こるといわれています。キーとなるのが腱板疎部です。
腱板疎部は骨と靭帯がくっついていて少し薄くなっているので、痛みや疼痛が出やすいという特徴があります。
これが五十肩の基本的な炎症です。
五十肩の中でも、特に悪くなりやすいのが棘上筋、棘下筋、上腕二頭筋長頭腱です。
五十肩は、寝てても起こる?
しかし、五十肩は運動しなくてもなってしまいます。
えっ???
……という感じですよね。
なぜ動かさないのに筋肉が悪くなるのでしょうか。なぜなら、機能的に痛みが出ているわけではなく、何らかの因子が働いているからです。
それでは、ここでどんな原因で五十肩になるか考えてみましょう。
どのような原因があると思いますか? 少し考えてみてください。
…
考えてみましたか?
それでは正解を発表しましょう。
慢性的な五十肩になる4つの原因
慢性的な五十肩の原因は大きく分けて4つあります。それが「筋肉」「姿勢」「内臓」「自律神経」の4つです。それぞれ詳しく説明していきましょう。
まず一つ目の筋肉です。
根本的原因が「筋肉」の場合
ここでは筋肉の使い方が問題になります。ただ一つ注意が必要なのは、どの筋肉が悪いのかは患者様を診ないと分かりません。だけど人それぞれパターンがあるので、代表的な3つのパターンに触れておきましょう。
「筋」が原因の代表的なパターン1つ目
一つ目は、内包肩(筋バランス)です。
内包肩は小胸筋と上腕二頭筋長頭腱、三角筋前部、そして補助的に大胸筋のバランスが崩れ、肩が内旋することで起こります。特大胸筋が関わっている人が多いですね。
内旋すると、それがゼロポジションになってしいます。つまり、その姿勢が当たり前になってしまうということです。
実際にやってみてください。肩を内側に入れたまま腕を上げてみましょう。
せ〜の!
……
どうですか、バンザイができませんよね。それでは今度は、腕を真っ直ぐに下ろしていつも通りに上げてみてください。
いきますよ、せ〜の!!
……
どうでしょうか、どちらが上がりやすかったですか。
当然、腕を真っ直ぐ下ろした方ですよね。肩が内旋すると、人の体の作りとしてバンザイができなくなります。内旋している人がそれに気が付かずにバンザイをし続けていると、どうなると思いますか?
痛くなりますよね……
当然の結果です。そういう微細な損傷も脳は感じ取ります。そして「このままだと筋肉が悪くなってしまう。固めないと!」と指令を出して筋肉を短縮させます。その結果、肩の前部が主導筋の役割を果たす一方、棘下筋と菱形筋が伸びてしまい、内旋した状態で固まってしまうのです。
筋肉が短縮すると、なぜ痛みが出るのでしょうか。一つは、微細な炎症が強くなったことが原因です。もう一つが、筋肉が短縮したままだと血流が悪くなるからです。
第2の心臓って聞いたことがありませんか?
……
そう、ふくらはぎのことです!
だけど、そのふくらはぎでさえ、動かなかったら心臓の役割は果たせません。筋肉に血流が多く流れ、ポンプのような作用をするから心臓と同じ役割ができるのです。
でも、固まった筋肉にポンプの作用がありません。なので、流れる血流量がとてつもなく少なくなります。そして活動量が落ちて、運動かない筋肉になってしまうのです。でも、筋肉も手をこまねいているだけではありません。動かすために、脳に信号を送ります。
血をくれーーーー!!!!
……と。それがだるさや痛みにつながります。
これが「筋肉の動かし方が原因となって起こる五十肩の代表的な3つのパターン」の一つです。
「筋」が原因の代表的なパターン2つ目
二つ目をみてみましょう。
それがトリガーポイントです。
筋肉には神経があり、血管が通っています。神経には2種類あって、それが感覚神経と運動神経です。感覚神経は、神経節後根で交わっています。
18分30秒以降の図
Aという筋肉とBという筋肉が交わって一つの後根ができる箇所があります。
ここで例えば、Bの 筋肉が悪いとしましょう。Aという筋肉は正常です。だけど、Bが悪ければ、Aに悪影響を与えてしまいます。その結果、脳は交わっている箇所が悪いと認識してしまうのです。すると本来ならBの方を正常に戻す指令をAにも出してしまい、何も悪くない箇所が悪くなってしまいます。
五十肩も同じメカニズムが働いています。そのとき重要な役割を果たすのが、肩甲下筋です。ここが固まってしまうと、もともと正常な筋肉にも悪い指令が行き、肩が内旋してしまいます。
「筋」が原因の代表的なパターン3つ目
3つ目は肩甲下筋と深く関わっている筋肉です。
分かりますか?
ちょっと考えてみましょう。
……
答えは「前鋸筋」です!
それでは、どういう人がなりやすいのでしょうか?
前鋸筋
それは、前鋸筋が使えてない人か、前鋸筋を使いすぎている人のどちらかです。実を言うと、前鋸筋を使えてない人の方はとても多います。前鋸筋が使えてない人というのは、
ずばり……
呼吸ができていない人です!
そんな人いるの? と思いますよね。皆、生まれてきたら誰にも教わらずに呼吸を始めますもんね。でも、いるんです。それでは実験してみましょう。
息を吸ってみてください。せ〜の!
す〜〜〜〜〜〜
どうですか? ちゃんと吸えましたか。息を吸ったとき、腹式呼吸になってしまった方はいませんか。
腹式呼吸に勝手になってしまう人は危険です。なぜかというと肋骨が動いていないから、お腹で呼吸してしまうわけです。
しかも正確にいうと、それは腹式呼吸のようなものであって、腹式呼吸ではありません。腹圧が入っていれば必ず肋骨と胸骨も動きます。肋骨と胸骨をうまく使えていないから、勝手にお腹が膨らんでいるだけなのです。そういう呼吸の人は五十肩にもなりやすい傾向があるので注意をしましょう。
以上が、筋肉が引き金となって起こる五十肩の説明です。なお、どの筋肉が悪いのかを調べるテストがあります。それがPNFテストです。このテストを通して、どの筋肉が原因でダメージを与えているのかが分かります。
少し長くなってしまいました。どれも重要な項目なので、ぜひ覚えておいてください。
根本的原因が「姿勢」の場合
五十肩の原因の二つ目に話題を移しましょう。原因の二つ目は……
姿勢です!
身体にはアルゴリズムがあって、その人の姿勢から身体のどこが悪いのかすぐに分かります。だからこそ、姿勢を理解すると、臨床のクオリティがグッと上げることも可能です。
今回は、上半身にファーカスしてお話ししましょう。特に五十肩に関係している、頚椎、肩峰、胸郭について解説します。
まず肩が内旋したときの姿勢を改めて確認しましょう。どのような姿勢になっていますか? 皆さんもやってみてください。どうですか?
……
まず肩が前に出ていますよね。それに肩に力が入りませんか? もう少しそのままでいてください。
……
どうでしょうか?
僧帽筋が固まっていませんか? 首も辛くなってきませんか??
実は肩が内旋している姿勢は、首肩コリや顎関節症、頭痛の方に多くみられます。なぜ、こうした姿勢になるかというと、肩甲骨が外転しすぎて、腕が内旋しているからです。
この姿勢を続けると、どうなると思いますか? 前に体重が掛かりやすくなり、前方軸と呼ばれる姿勢になります。やがて頸椎が前に突出し、バランスを保つためストレートネックにもなってしまうでしょう。最終的には、倒れないようにするため、腰を反るようになるはずです。
肩の内旋を調べ方があるので紹介しましょう!
肩峰に肘を当てて、腕を動かしてください。その時、手が耳に当たりますか?
バッチリと当たる方は問題ありません。肩と首の位置関係も正常です。当たらない人は要注意です。どこかでバランスが崩れていて、恐らくストレートネックになっているでしょう。
五十肩の方はほとんど肩が内旋しています。前方軸、ストレートネック、反り腰といったポイントを押さえて、適切に診察をしてください。
根本的原因が「内臓」の場合
三つ目の原因は内臓です。内臓の位置関係や活性化によって、肩に対するストレス度合いが変わってきます。
可動域を広くしてもらったけれど、数年後、また元に戻ってしまった……
肩が上がるようになったけど、ある一定以上は上がらない……
こうした悩みを抱えている患者様は数多くいます。なぜ再発したり、完治したりしないのでしょうか?
……
そうです、筋肉と骨格以外に原因があるからです。
ズバリ原因は「内臓」にもあるということ!
ここを把握していることで、五十肩をしっかりと治せるようにもなるでしょう。
でもちょっと待って!
五十肩だけど内蔵の数値は悪くないですよ。
…と、こう反論する人もいるかもしれませんね。治療の現場で。こういう声をよく聞きます。ここで大切なことを言います。
よ〜く聞いてください。
内臓の状態が数値として検出されるまでおよそ3年程かかります!
これは重要なので、ぜひ覚えておいてください。
数値が現れる3年の間に、五十肩になったり、体の弱いところに症状が出たりするわけです。数値に騙されてはいけません! 医者に診られないところを診られるのがセラピストということも押さえておいてくださいね。
それでは具体的に確認していきましょう。
まず肝臓が悪いと、右肩に症状が出やすいです。そもそも肝臓は内臓の中でも一番大きな臓器です。解毒作用を持っていて、人の中にある毒素を分解する酵素をつくっています。また、体内の血流の60%を保有していたり、活性酸素を分解するカタラーゼという酵素をつくっていたりと、その役割は重要です。
活性酸素は、適正な値では身体にとって味方となるのですが、多すぎると細胞にとって毒となります。体内でストレスが溜まると活性酸素が必要以上に体内に留まってしまい、細胞死や加齢を引き起こします。
肝臓は前鋸筋と深い関わりがあって、反射点もわき腹付近にもあります。
反射点とは内臓が悪くなったとき、皮膚とアクセスするポイントです。オステオパシーや東洋医学のツボなどは反射点と近い概念です。
人はあらゆる角度から大切な臓器を守っています。皮膚も内臓の異常を知らせてくれ、第二の脳と呼ばれるほどです。だからこそ、肝臓が悪くなったら、そことつながっている反射点も「悪いですよ!」と反応します。それを察知して、脳は肝臓を良い状態に戻そうと動きます。
また、肝臓が悪くなると、身体にある特徴が出ます。どんな特徴だと思いますか?
……
なんと身体が回ってしますのです!
どう回るかというと、左回旋してしまいます。特に慢性的なストレスが溜まっていると、さらにねじれてしまうので注意が必要です。
突然ですが、ここで質問です!
先ほどから肝臓が悪いと言っていますが、それはどのような状態を指すのかご存知ですか?
……
冷静に考えると、ちょっと難しいですよね。
内臓の活性化レベルは、内臓の位置関係で決まっています。どのような位置にあるかで働きが変わるのです。正常な位置にあれば問題ありません。しかし、そうではない場合、活性化レベルは落ちてしまいます。
肝臓の位置関係を壊す原因こそ……
姿勢なんです!
姿勢と内臓が連携しているからこそ、二つの視点で症状を捉えないと良くはありません。ここ重要なポイントなので、頭に叩き込んでおいてください。
最後に左肩の五十肩に出やすい症状も解説します。右肩の場合、肝臓でした。それでは左肩の場合、どこに症状が出ると思いますか?
ちょっと考えてみてください。
……
分かりましたか!?
答えを発表します、ズバリ心臓です。
例えば、心疾患を持っている方は、左肩の五十肩のケースが多いです。一方で、肝硬変や肝臓病、肝炎などの方は右肩の五十肩がたくさんいます。
このポイントを押さえていたら、慢性的な症状の根本原因にたどり着ける可能性も上がります。ぜひしっかりと覚えておいてください。
根本的原因が「自律神経」の場合
五十肩の原因の4つ目は、自律神経です。
精神的な疾患を持っている方は肩にも症状が出やすい傾向があります。
周囲にとても気を使う。
いじめられた経験
DV
トラウマ
…など、過去の暗い経験が身体に現れることがあるのです。しかも、慢性疾患になりやすく、治りづらいので注意してください。
五十肩の場合、どういう風に自律神経にアプローチを掛けていくかというと、内臓との合わせ技です。それによって完璧なアプローチが可能になります。
まず交感神経優位と副交感神経優位の見分け方からお話ししましょう。
交感神経優位とは緊張状態で、副交感神経優位はリラックスです。このバランスは4対6がちょうどいいと言われています。つまり、必要なときに交感神経を使う生活がベストだということです。
五十肩の方は、周りに気を使ったり、仕事を頑張っていたりと、交感神経優位の状態です。その状態を緩和するため、まずは温めてみてください。どこを温めるかというと、お腹です。そこを温めると副交感神経の代表的な神経である、迷走神経を優位に働かせること可能です。
五十肩を治すためには、副交換神経を優位に働かせる前提条件をつくることが欠かせません!
まとめ
これで五十肩の4つの原因が分かりましたね? それは……
筋肉
姿勢
内臓
自律神経
…の4つです!
それを踏まえると、五十肩の治療の順番は……
- 副交感神経優位の状態をつくる
- 内臓をみてアプローチをする
- 姿勢にアプローチする。
- 筋骨格系にアプローチする
…という流れになります。
このアプローチで慢性の五十肩も治るでしょう。治療の糸口も見出せるかもしれません。手技編では具体的な方法について解説します。まずここでは五十肩のメカニズムについて、ぜひ押さえておいてください。
著者:笹倉栄人
株式会社ALTURA代表取締役
- 2017年アジアの次世代リーダー100人の1人に選出
- 2018年には世界新聞ニューヨークタイムズで世界の若手リーダーとして香港で表彰
- 出版:身体に現れる「氷山の一角」を見落とすな『身体革新』体をデザインする思考法
執筆協力:三輪 大輔